ユング心理学の世界へようこそ

東洋哲学と練金術

フロイトと別れ、中年期の危機にさしかかっていた頃、
ユングはよく、円形の絵を描いていたそうです。

 

最初は、なぜ円を描いてしまうのか
自分でもその意味を理解できなかったようですが、

精神的に安定している時にはキレイな円が描けるものの、
心が不安的な日に描く円はいびつであることに気づき始めます。

 

そしてある時、ユングは、
自分の描いた円と東洋で瞑想の道具として使われている「マンダラ」

との間の共通点を見いだしたのです。

 

マンダラとは、サンスクリット語で「円」を意味する言葉。
理想的な精神状態を表す象徴として使われるもので、

自分の中の対立する様々な感情を統合する意味があります。
(例えば、男性性と女性性、劣等感とプライドなど)

 

自分の中の相対する感情をうまくコントロールして収集をつけていないと、
円は歪んでしまうのです。

 

そもそものきっかけは、
友人であるリヒャルト・ヴィルヘルムによって贈られた

東洋哲学に関する書籍にあったようですが、
以後、ユングは東洋哲学について

熱心に研究するようになったと伝えられています。

 

同時に、中国の「錬金術」や西洋の練金術にも出会い、
この研究に没頭していくのです。

練金術とは?

錬金術って、言葉としては知っていても
「一体なんぞや?」と首をかしげてしまう方も多いことでしょう。

 

錬金術とは、水銀や硫黄などの卑金属(空気中で熱すると簡単に酸化される金属)から、
金や銀といった貴金属を作り出す技術と、宗教・哲学が結合したもの。

 

…といっても、抽象的過ぎて意味が分からないですよね(笑)

 

これは、ざっくり言うと、化学と「おまじない」の融合
古代から続いてきたもので、祈りや瞑想の力で、

金や賢者の石(卑金属を貴金属に変えることができると信じられていた)を
作り出すという操作です。

練金術師たちは、祈りながら様々な物質を混ぜ合わせたり、
熱や圧力を加えてみたり…。

(ちなみに、ビーカーやフラスコなどの実験器具もこの頃に生まれたそうです)

 

化学実験というにはあまりにも精神的な要素が強過ぎますし、
かといって、完全に思想的なものでもないという…。

実際、「異なる物質の結合」という意味では、いわゆる
「化学」(近代科学的な意味での)につながっている部分もありますし、

西洋的な哲学思想の元にもなっています。

 

ユングはここに、「心の中の異なる要素の結合」を重ね合わせていたのです。

練金術と心理学は似ている!

錬金術師たちは、金やラピスを作り出そうと、様々な努力をしました。
混ぜ合わせる物質を変えてみたり、量を調整してみたり、

熱や圧力を加えてみたり…。

 

そして、その中で現れる変化に、
「太陽と月の結合」「男性性と女性性の結合」

…と言った具合になんらかの意味付けを行っていたのです。

 

結局、(単に化合物が次々に生み出されただけで)
金やラピスを作り出すことはできなかったものの、

これらの記録が持つ意味は非常に大きいとユングは考えました。

 

ユングによれば、
「錬金術師たちは、物質同士の結合に

自分たちの心の中の対立する要素の結合を重ね合わせて見ていた」
のだとか。

異なる要素を結合して一つにすることで、
「より完全なもの」「より完璧なもの」を作り出そうとしていたのです。

 

ユングが、「錬金術と心理学は似ている!」
と、興奮するのも無理はありません。

 

研究の成果としては、1944年には『心理学と錬金術』
1955年には『結合の神秘』という著書を発表しています。

 

 

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