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箱庭療法とは?

ユング派の心理療法の一つに、「箱庭療法」があります。
心理学に興味がある方なら、言葉くらいはきっとご存知でしょう。

みなさん、「あ〜、箱の中におもちゃを置いたりする、アレね」
という程度の知識くらいはお持ちなのではないでしょうか。

 

適当な箱の中におもちゃを並べさせれば良い…というわけではなく、
あの箱は、厳密に言うと大きさが決まっています。

正式には、横57cm、縦72cm、深さ7cm程度の内側を青く塗ってある箱に、
深さ3cm程度まで砂を敷いたものを使います。

 

この箱の中に、砂や石、様々なおもちゃを用いて
自分の“世界”を表現するわけです。

 

ユングがこの箱庭療法に期待したのは、主に子供の心の治療。
気持ちを上手に言葉で表現できない子供たちの内面を理解するためには、

こうしたおもちゃを使った表現方法が有効であると考えたのです。

 

実際、この箱庭療法は、言葉を使う必要もなければ、
絵のようなセンスも問われません。

川を作ったり山を作ったり、乗り物に乗った人を登場させたり、
動物を登場させたり…。

 

特に力むことなく自分の思うように表現を楽しむことができるのです。

箱庭療法を用いた具体的な症例

言葉では自分の内面をうまく表現できない人のための、
一種の「自己表現ツール」ともいえる箱庭療法。

ユング派の治療技法の中でもかなりメジャーどころですが…。

 

では、臨床の現場ではどのようにして治療に生かされているのでしょうか。

 

【箱庭療法 例@】

 

対象:
「授業中も落ち着きがなく、時には同級生に暴力をふるうこともある」

という小学校低学年の男子。
自閉症やADHD(注意欠陥多動性障害)が疑われたが、

検査の結果、それらの障害ではなく
心理的な問題が原因である可能性が高いことが分かった。

 

 

最初の治療:
落ち着きなく、次から次へとおもちゃを手にするという状態。

箱庭療法を始めてみても、ただ無秩序におもちゃを置いているだけで、
全体的なまとまりやストーリーがなかった。

 ⇒自分自身の心の中がうまく整理できていない状態を伺わせる。
 両親とのコミュニケーション不全を疑わせる結果。

 

 

治療に現れた変化:
回を重ねていくうちに、どう猛なワニやライオンといった動物や

銃を手にした兵隊など、攻撃性を感じさせるモチーフを多用するようになった。
そこからさらに発展して、救急車や病院なども登場し、

「攻撃を受けて傷ついた人を治療する」
というストーリーが感じられるようになっていった。

 

最終的には、山や川が流れる里山のような場所に、家々が立ち並び、
動物や人が仲良く暮らしている…というようなイメージの箱庭が完成した。

⇒厳しい父親に対する攻撃心、
 過保護で一方的に愛情を押し付ける母親 への反発心…等、

 心の中で抑圧し続けてきた感情が箱庭に現れていった。
 今まで表に出せなかった感情を表現できたことで

 自分自身の心の中のエネルギーをうまくコントロールできるようになり、
 攻撃性は薄れ、全体としてまとまりのある箱庭を作れるようになっていった。

 結果として、学校での暴力行為もおさまり、
 授業中も落ち着いて席に座っていられるようになった。

人は表現することで癒される

最近は、ブログやツイッターで自分の考えを表現する方も多いと思いますが、
心の中で悶々と抱えていたことを言葉や文章にするとすっきりしませんか?

 

また、文章を書いているうちに、頭の中がクリアになってきて、
自分自身でも曖昧だった考えが明確になった…

という経験も多いと思います。

 

ユングが考案した箱庭療法にも、コレと似たような効果があります。
箱庭という小さな限られた空間の中に自分の内面を表現することによって、

心のエネルギーの循環を改善することができるんですね。

 

ユング自身も、精神のバランスを取るために、
小石を使った村の模型作りに没頭していた時期があります。

 

内面から湧き出てくるものを素直に表現し、
完成した作品を通して自分自身の内面と対話する。

箱庭療法には、私たちが自分でも気づいていない私たちの「本心」、
「内的な世界観」を見出すという効果も期待できるんですね。

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