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「創造の病」とは?

「天才」と呼ばれる人は、得てして病気や災難に見舞われるもの。
かのベートーベンも、病で聴力を失っていますし、

ドストエフスキーはてんかん持ち、
ゲーテやチャイコフスキーはうつ病、

ニーチェは分裂病(統合失調症)だったと言われています。

 

さて、この“病”を心の病に限定して考えてみた場合、
天才的な思想や真理を発見するセンスの持ち主

(要するに“天才”ですよね)は長年の神経症的状態(=心の病気)を
経験している傾向があることが指摘されています。

簡単に言うと、「天才は心を病む経験をしている」ということですね。
この説を唱えたのは、エレンベルガーという精神医学者。

かれはこの概念に「創造の病」と名付けています。

 

事実、フロイトは、
自分自身の神経症の体験を通して精神分析を体系化しましたし、

ユングは、フロイトと決別した直後に
内的な危機(中年の危機)を体験。

その体験を元に、分析心理学を体系化したと言われています。

 

※ちなみに、この場合の“天才”とは、
心理学の世界に限定されるものではありません。

科学者や思想家、芸術家(作家や音楽家)…と、
あらゆる分野で秀でた才能を開花させる人を意味しています。

症状の特徴は?

学問や芸術的な分野で人並み外れたセンスを発揮する、
“天才”と呼ばれる人々。

ユングやフロイトもこうした“天才”陣に含まれているわけですが、
彼らの多くが、「創造の病」と呼ばれる、

心の危機的状況を経験すると言われています。

 

創造の病の主な症状としては、
いわゆる「うつ病」の症状が挙げられます。

すなわち、睡眠障害や頭痛、うつ気分、無力感、倦怠感…etc
それまでできていたことがスムーズにできなくなるといった症状も

“うつ”の症状に含まれますよね。

 

創造の病では、これらの症状が数年間にわたって続くことがあります。
しかし、その間、孤独感にさいなまれながらも

知的作業自体は継続されるのが特徴的。

 

しかも、発症自体も突然ですが、回復する時も突然!
まるで濃い霧が晴れた時のような爽快感と共に、

 

「自分は生まれ変わった!」
「自分は新しい精神世界を発見したのだ」

 

という強い確信が生まれるのだといいます。
そして実際、新たに生み出した思想によって社会的な評価を得る…。

これが、創造の病の特徴です。

 

天才的なセンスを持った人が
長時間にわたって「不休の知的作業」に没頭し、

さらには心を病んで孤独感に耐えに耐え抜いた末に辿りつける。
まさに“神の領域”と言っても過言ではない

特別な境地と言っても過言ではないでしょう。

 

ユングの創造の病

ユング心理学の世界では、
「傷ついた治療者」と言うキーワードがよく使われます。

これは、読んで字のごとくですが、

 

「治療者であっても心を病むことはある」
「心に傷を負うからこそ人の苦しみにも共感することができる」

 

…といった意味の言葉です。

 

実際、ユングも、
「創造の病」で孤独のどん底に落ちていた時期がありました。

それは、師であるフロイトの思想に対する違和感を払拭できず、
「フロイトから距離を置いて独自の道を切り拓こう」と決意した頃。

まるで父親のように慕っていたフロイトの存在を失い、
一時期は自分でもどうしたら良いのか

わからなくなってしまったようです。

 

そんな時、彼は、
いわゆる「集合無意識」にアクセスする術を身に付けました。

そして、知恵を授けてくれる
「老賢人」のイメージ(のちに確立する「元型」理論の基礎)や

「マンダラ」との出会いによって、
創造の病から脱する事ができたのだと言われています。

 

なるほど、“天才”と呼ばれる人たちと凡人との大きな違いは、
「転んでもただでは起きない」という点かもしれませんね(笑)。

自らが経験したからこそ見えてくるもの、
“実”として身に着くこともあるわけで

そういったものを敏感に察知して、
時代に合った新しい思想へとつなげていく…

 

そのセンスこそが、“天才的”なのでしょう。

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